AI技術開発部分析グループマネージャーの島田です。分析グループは、タクシーアプリ「GO」におけるデータドリブンなビジネス意思決定を行うために、様々なユーザ分析、乗務員分析を行っています。本記事では、ユーザのLTV推定についてまとめてみました。
LTV(Life Time Value)またはCLTV(Customer Life Time Value)とは、日本語にすると「顧客生涯価値」と訳されます。
本来は、顧客が契約から解約になるまでのキャッシュインフロー(金銭の流入を意味し、通常は売上の回収することで発生)とキャッシュアウトフロー(金銭の流出を意味し、契約前の広告宣伝費や、契約中のサービス維持コストなどが該当)を現在価値に割り引き、損益計算することでLTVを算出します。
このLTV推定は、目的や利用可能なデータ、推定値の更新頻度などによって様々な推定方法が存在します。まずはLTV推定の目的を整理しておきます。
LTVを算出するビジネスの大前提として、1人の顧客が何度もキャッシュフローを発生させるということがあります。特にSaaSをはじめとするサブスクリプションビジネスにおいては、料金プランがシンプルで、月次で顧客が発生させるキャッシュフローを予測することが比較的簡単です。このように将来発生するキャッシュフローの予測が立てられるのであれば、将来発生するキャッシュフロー(:Cash Flow)を現在価値(:Present Value)に変換して企業価値を評価できます。は年後に発生するキャッシュフローで、は割引率であると同時に期待収益率になります。
株主・投資家はここからエンタープライズDCF法(Enterprise Discount Cash Flow Model)などで企業価値を評価し、投資機会を選定することになります。この将来発生するキャッシュフローは、各顧客のLTVを足し合わせたものになるので、LTV推定は重要です。
CRM(Customer Relationship Management)とは、日本語では「顧客関係管理」と言います。CRMは非常に範囲が広い用語のため厳密な定義はできませんが、特徴が2つあると考えています。
この「大事にしたい顧客」を決めるにあたってLTVが活用されます。
補足ですが、LTVが高い顧客=大事にしたい顧客とは限りません。例えば、アクションによってLTV向上が見込めるのであれば、現在のLTVが低い顧客であっても、大事にしたい顧客になりますので、このあたりはビジネスの状況に依存するとしか言えません。
LTVを用いて、PI(Profitability Index;収益性指標)の一つであるROAS(Return On Advertising Spend;広告宣伝費用対効果)を顧客単位かつ中長期に適用することでユニットエコノミクス(Unit Economics)を算出することができます。ユニットエコノミクスはROASの広告宣伝費を顧客獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)とみなして以下の式で計算されます
この指標はサブスクリプションビジネスにおいて目安として3より大きいことが望ましいとされています。これは、一般的にCACの回収期間が12ヶ月で、解約率(チャーンレート;Churn Rate)が3%未満を目安とすることに合わせて経験的目安とされています。
タクシーアプリ「GO」では、2022年現在サブスクリプションビジネスは行っていないため該当しません。ただし、「LTV」を検索すると必ずサブスクリプションビジネスを前提としたLTV推定方法に行き当たると思いますので、簡単にだけ触れておきます。サブスクリプションビジネスに興味がある場合は、Salesforceによる「SaaS スタートアップ 創業者向けガイド」が参考になります。
サブスクリプションビジネスでは、LTVをキャッシュインフローのみ考慮して算定式を立てることが多いです。これは特にB to Cのサブスクリプションビジネスにおいて、特定の顧客のみに営業や広告宣伝を行うことは考え難く、契約後のサービス維持のために特定の顧客にコストをかけることも多くないため、顧客ごとのキャッシュアウトフローを0とみなすことも間違いではないという考えに基づいています。
キャッシュインフローを、期間、割引率(資本コスト、期待収益率)%とした場合のLTVは以下の式で求まります。
ここがサブスクリプションビジネスの最大の特徴ですが、サブスクリプション契約を開始すると、決まった金額が毎月欠かさずキャッシュインフローとして発生します。キャッシュインフロー()が一定とみなせる場合、期間を無限大にすると、次の様に式が簡略化できます。これは、既存の契約は一定期間継続されるが、その間に新たな契約に順次置き換わることを前提としています。
さらに現在価値に変換することを考慮しない場合は、顧客の平均継続期間をとすると次の通りになります。
顧客の平均継続期間はチャーンレートをもとに単純平均で計算すると次の通りになります。
平均継続期間はチャーンレートの逆数であることが分かったので、LTVは以下の様に計算できます。
キャッシュインフローが一定と考えるのであれば、サブスクリプションビジネスにおいて利益を向上させるためにはチャーンレートを下げることに注力すれば良いことになります。そのため、サブスクリプションビジネスにおいてはカスタマーサクセスによる顧客の解約抑止がビジネス継続・拡大の中心的役割を果たします。さらに、チャーンレートが下げられなかったとしても、契約継続する顧客がアップリフトやクロスセルしてLTV向上させることで、チャーンした収益を上回る収益拡大ができるのであれば良いというネガティブチャーンという考え方も出てきます。いずれにしろ、キャッシュインフローが一定であるという前提条件はLTVを計算しやすくし、ビジネスの見通しが良くなるということが分かります。
一方で、キャッシュフローが一定ではないけれども、一人の顧客が何度もキャッシュフローを発生させるビジネスにおいてLTVを見積もることは難しいです。
例えば、スーパーマーケットの顧客の例を考えてみましょう。顧客の1回あたりの購入金額はバラバラでしょうし、次回の購入(つまりキャッシュフローの発生)がいつなのかわかりません。